神谷憲吾「空白から余白へ -地域文化のデザインコードを利用した『閉じられた空白』の活用方法の提案-」
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◇地方住民の分断
地方地域の人口減少が問題視されている中、地方コミュニティの中では住民の分断が生じているのではないだろうか。
古くからの商店や民家などが残る中心市街地には長年住んでいるお年寄りが残り、大型スーパーマーケットなどが建ち始めた中心市街地の外側には、利便性を求めた若い世代が移り住む。
この両者の分断は、お互いが豊かに生活するうえで解決すべき課題であると考える。
◇空き家の増加
地方の空き家問題は深刻である。景観を損なったり、防災の観点からも取壊しが推奨されている。
しかし、所有の問題や費用などから放置されている空き家も多い。
地方商店街の衰退に処方箋はないと言われる中、かつて密に栄え、街を支えた商店街の空き家をアクティビティを誘発する「余白」として再評価することはできないだろうか。
魅力的な歴史文化があり、私にとっても思い出深いこの街の人々が、いつまでも豊かにすごせるように。
https://gyazo.com/bc41873aaa27af0d6536360eb88794c6https://gyazo.com/2089b2f67575b9205fe85045bb2ad7fe
一、敷地 山形県新庄市 北本町商店街
本計画敷地の北本町商店街は街ができたころからある最古の街道である。主に看板建築からなり、最盛期は建物の表面の力が大きな街だったと言えるだろう。
城下町として街の発展と共にあったこの中心市街地は、時代の流れと共に衰退の一途を辿っている。かつて栄えた商店街はシャッターが目立ち、何にも使われていない空き家も多い。「この商店街はもう死ぬのだ」と、中心街の外側に移り住む方もいた。
https://gyazo.com/ea0956ef2b81b530bd655cb19fd5f65e
二、ユネスコ無形文化遺産「新庄まつり」の存在
◇この敷地は新庄まつりの開催地でもある。毎年八月二四、二五、二六日の三日間は神輿や山車が練り歩き、屋台も出店して街全体が一年で最も活気づく。その歴史は古く、藩政時代の宝暦六年、藩主戸沢正諶が前年の大凶作でうちひしがれている領民に活気と希望を持たせ、豊作を祈願するために、戸沢氏の氏神である城内天満宮の新祭を領民あげて行ったのが起源とされている。
開催当時から開催地はこの中心市街であり、この敷地とまつりは切り離せない存在である。
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隠された財産 「山車小屋(やたいごや)」
◇まつりの山車は市内の各自治体(若連)がそれぞれ制作するため、毎年二十台弱の山車が各地で制作される。
山車をつくる建物は「山車小屋(やたいごや)」と呼ばれ、中にはまつりの時期になると一から小屋を建て、まつりが終わると解体するといった、パワフルな行為が行われている。
https://gyazo.com/af0a14e5d584981bcbde2968d53bec88
三、街の空き家解体の特徴
道に面した空き家を解体することで、建物間に隙間が生まれる。寂しさも感じる光景ではあるが、密度の高い商店街における余裕ともとれる。
これを街の空き家解体の特徴とする。
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四、提案 「余白としての商店街」
かつて街の中心として密に発展した商店街を大きな余白としてとらえ、住民の分断をつなぎとめるための場とする。
◇減築部分にふるまいを与える
一、街の解体の特徴を踏襲し、対象建物の前面に減築を施す。
二、減築された既存部分は、住民との関係が希薄化している歴史センターの分棟や、出張図書館のほか街の記憶を感じられる場となる。
三、減築によってできた余白には、山車小屋から抽出したパタンを付加することで場所性を持たせる。
山車小屋パタンは街の文化の遺伝子であり、利用者である住民が組み替える。まつりやその他のイベントごとに姿を変えていくことで、街の記憶が技術と共に受け継がれる。
◇山車小屋パタンの流通
山車小屋パタンの部材は各地の資材置場にストックしてある。それを住民が用途に合わせて自由に組み換えて利用していく。
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山車小屋パタン
主な山車小屋4つからパタンを抽出し、デザインコードとする。
設計詳細
図書館分棟ー健康教室
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アーケードを歩く人をくぼみが誘い込む
図書館分棟ー親子教室
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減築部分から光が差し、活動の場となる
歴史センター分棟ー工芸教室
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単管パイプのフレームは様々なものに変化する
歴史センター分棟ー個展会場
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仮設の階段が上階へと導く
歴史センター分棟ー出張シアター
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増設した屋根が奥への期待感を生む
歴史センター分棟ー直産物販売所
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平時、実践販売の様子
拡張作業スペースによって隣家とつながる
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日常の状態からセルフビルドを繰り返され、住民が場を使いこなす。
その際に文化の建築的遺伝子を用いることで、文化が技術と共に受け継がれていく。
講評:地元で営まれる祭りの際に毎年住民のセルフビルドによって立ち上がっては撤去される山車小屋を発見し、そこから商店街に増築するデザインコードを取り出している。その際に、既存の商店のファサード部分を減築し、その余地を生み出している点が面白い。既存の商店街は看板建築が多く、建物の前面部は時代ごとの変化を受け入れ変化するボリュームであると読み替えることで、説得力を持たせている。また祭りの際にはさらに住民により手が加えられ、空間が変化するという。常に仮設であり続け、変化を続ける山車小屋の地域文化を、商店街で受け継いでいくという強いメッセージが込められている。(井本)